高松高等裁判所 平成3年(行コ)9号 判決 1993年1月28日
控訴人
安岡憲二
控訴人
安岡八重野
右控訴人両名訴訟代理人弁護士
井上善雄
小田耕平
山本勝敏
被控訴人
Y1
同
Y2
同
Y3
同
Y4
同
Y5
同
Y6
同
Y7
同
Y8
同
Y9
同
Y10
同
Y11
同
Y12
同
Y13
同
Y14
右被控訴人一四名訴訟代理人弁護士
中西一宏
髙田憲一
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10、同Y11、同Y14、同Y13、及び、同Y12は、徳島県板野郡吉野町に対し、各自金一五万八〇〇〇円を支払え。
2 控訴人らの、被控訴人Y1に対する請求、及び、同Y2に対するその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、控訴人らと被控訴人Y1との間で生じた分は第一、二審とも控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人Y2との間で生じた分は第一、二審を通じこれを二〇分しその一を被控訴人Y2の、その余を控訴人らの各負担とし、控訴人らとその余の被控訴人らとの間に生じた分は第一、二審とも同被控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者双方の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取消す。
2(一) 被控訴人Y1及び同Y2は、徳島県板野郡吉野町(以下「吉野町」という。)に対し、各自七二万二〇〇〇円を支払え。
(二) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y3は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(三) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y4は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(四) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y5は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(五) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y6は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(六) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y7は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(七) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y8は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(八) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y9は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(九) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y10は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(一〇) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y11は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(一一) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y14は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(一二) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y13は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
(一三) 被控訴人Y1、同Y2及び同Y12は、吉野町に対し、各自一五万八〇〇〇円を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
控訴棄却の判決
第二 当事者双方の主張及び証拠関係
当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか原判決事実摘示(ただし、原判決書四丁裏七行目「吉野町議会議員らは」を「被控訴人Y1、同Y2、同Y12を除く前項記載の被控訴人ら一一名、及び、訴外A、同B、同Cの計一四名の吉野町議会議員らは」に、同所八行目「訪れた」を「訪れ、被控訴人Y2及び同Y12はこれに同行した」に、五丁表三行目「同額を同人に対し交付して」を「被告Y2は同額を自己に対して」に、同所七行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y3に対し」に、同所末行「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y4に対し」に、同丁裏四行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y5に対し」に、同所八行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y6に対し」に、六丁表初行「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y7に対し」に、同所五行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y8に対し」に、同所九行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y9に対し」に、同丁裏二行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y10に対し」に、同所五行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y11に対し」に、同所八行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y14に対し」に、七丁表初行「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y13に対し」に、同所四行目「同額を同人に対し」を「被告Y2は同額を被告Y12に対し」に、同所八行目及び同丁裏二行目の各「同額を」をそれぞれ「被告Y2は同額を」に改める。」のとおりであり、証拠の関係は、原審及び当審記録中の各書証目録、並びに、各証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
一 控訴人らの主張
1 本件旅行の実質は、慰安のための観光旅行である。本件旅行の目的は、産業、経済、文化の行政視察、研修であったというが、行先を決定する段階から、北海道にするか、東南アジアにするかアンケートで決めたというもので、、当初から目的をもった具体的な視察、研修計画が立てられていたわけではなく、現実になされた旅行も企業の行う慰安旅行や一般観光ツアーと何ら異るところはなく、行政視察や研修は一切行われていない。このような旅行を議員の識見を高めるための研修旅行というのであれば、一般観光旅行も議員がすればすべて議員研修となり、公務ということになり兼ねない。
2 本件旅行の実態は、計画された買春旅行である。すなわち、旅行計画書の上では宿泊は、いずれの地においてもホテルで二人一部屋(ツイン)としておきながらバンコクでは買春に備えて各人一室にセットし、現地では、旅行団全員がいわゆるテイハウスとよばれる買春婦指名場所にバスごと案内され、各人が指名した女性をホテルに来させて、参加者の大部分の者が買春し、その費用にあてるために小遣いとして一人三万円が支給された。
3 右のとおり、本件旅行は、視察、研修の名のもとに行われた慰安旅行であり、仮に、議会ないし町理事者に視察、研修についての裁量権が認められているとしても、その裁量権を逸脱したもので違法である。したがってそれに対して町費を支出することもまた違法である。
二 被控訴人らの主張
すべて否認する。
議員の職務は広範な事項に及び、議会活動には広い知識や経験、教養を必要とするから、議員の研修は議会の自律にまかされ、その対象、範囲、方法については広範な裁量権があるのは当然である。本件旅行も右裁量の範囲のものであって、何ら違法なものではない。なお、このような研修旅行が相当であったか否かについては、選挙によって住民の審判を通じて判断されることであって、司法審査を発動するまでもない事柄である。
理由
一引用に係る請求原因1ないし3の事実、すなわち、控訴人両名が吉野町の住民であり、被控訴人Y1は吉野町の町長、被控訴人Y2は同町の収入役、被控訴人Y12は同町議会事務局長の地位にある者、その余の被控訴人らは、いずれも、同町の町議会議員の地位にある者であること、吉野町議会議員らは、昭和六三年度の議員研修として本件旅行を実施し、被控訴人Y1を除く被控訴人ら及び訴外A、同B、同Cの一六名がこれに参加したこと、及び、被控訴人Y1は本件支出命令(1)ないし(15)を出し、収入役である被控訴人Y2は右命令に基づき本件支出(1)ないし(15)の支出をしたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二控訴人らは、被控訴人らに対しその受け取った旅費等の返還を吉野町に代位して請求する理由として、本件支出命令の違法をいうが、支出命令及びこれに基づく支出行為自体に固有の違法事由があるとするのではなく、支出命令の前提となった吉野町議会の本件旅行決議が違法であり、本件支出命令とその支出はこの違法を承継したとするものであることは弁論の全趣旨によって明らかであるから、まず、町議会における議決が違法であるか否かについて判断する。
1 吉野町議会が、本件旅行を決定した経緯、議決に係る本件旅行の日程、内容
<書証番号略>、当審証人安田和夫の証言、原審における被控訴人Y12本人尋問、当審における被控訴人Y3本人尋問の各結果(被控訴人Y12及び同Y3につきいずれも後記信用しない部分を除く。)、及び、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
本件旅行は、昭和六三年度の吉野町議会議員の研修旅行として企画決議されたもので、その研修先等は次のとおりの経過で決定された。
昭和六三年八月九日、吉野町議会の総務、産業経済、文教、厚生の各常任委員会、及び、同和対策特別委員会の各委員長で構成する委員長会(職務上、町議会議長及び副議長も出席する。)は、同年度の議員研修旅行を九月定例会終了後の九月二七日から実施することとし、研修先、目的、内容について、第一案として、研修先を東南アジアとし、外国の行政事情について議員が知識を深め議会の活動能力を高めるため、外国における産業、経済、文化の行政につき委員会ごとに視察する案、第二案として、研修先を北海道とし、市町村を選択して同地の行政を視察する案を作成し、全議員に対しては、研修旅行を東南アジアにするか北海道にするかのアンケートを実施して旅行先を多数決で決めることにし、これが決定され次第、県内の旅行業者三社に費用等の見積りを出させること、更に、研修費用の一部として参加議員が各自一万円を負担することなどを決定した。これを受けて議会事務局は、各議員に対し前記委員長会で決めた旅行先につきアンケートを実施したところ、東南アジアとした者一六名、北海道とした者三名、欠席とした者一名という結果となったので、旅行先をタイ、シンガポールとすることを前提に前記委員長会の決議に従い、旅行業者三社に行程、旅行費用等の見積りを依頼し、これに応じて提出された見積書等を参考に、右旅行については、東武トラベル株式会社に企画、実施等を担当させることに決めた。そこで、議会事務局は東武トラベルに対し、計画立案の際に、訪問国の議会や行政庁等の視察を行程中に組み入れることの可能性を打診したところ、東武トラベルから、そのような視察は相手国との関係で国会議員を通じて旅行の数か月前に申し出なければならないといわれてこれを断念し一般観光旅行と同じ行程で立案させることとなった。そしてその後間もなく東武トラベルが作ってきた旅行の行程は、第一日目(九月二七日)は、徳島空港を午前八時四五分に出発し、大阪、香港を経由して、同日午後四時五五分バンコク国際空港に到着、その後夕食を兼ねてディナーショウを見、同夜はバンコクパレスホテルに投泊、第二日目(九月二八日)は、貸切バスでバンコク市内の観光、タオカノーン運河、水上マーケット、暁の寺、王宮、エメラルド寺院、ローズガーデン等の観光、第三日目(九月二九日)は、バンコクから空路シンガポールに移動し、工場見学(土産物店付設の装飾品加工場)の後、ホテル、ザ・マルコポーロ・シンガポールに投泊、第四日目(九月三〇日)は、貸切バスでシンガポール市内の観光、植物園、チャイナタウン、シンガポール川、スリ・マリアン寺院、マウントウェーバー、ブギチイマ道路、ジヨホール水道、サンタン王宮、回教寺院等の観光をし、第五日目(一〇月一日)には、シンガポールから香港、台北経由で帰国する、という一般の東南アジア団体旅行の観光コースと全く異ならないものであった。町議会議長である被控訴人Y3は同年九月六日、全議員に対し、右の旅行日程等を詳細に記載した「議員視察研修の実施について」と題する書面を交付した。これに対し議員真鍋邦芳から、右旅行は研修に名を借りた観光旅行であるとの批判が出されたが、これを無視し、町議会は同月一九日、折から開会中の九月定例会において本件旅行、及び、これに伴う研修旅費として従前の予算二〇〇万円に加え、新たに一一五万円の一般会計補正予算案を可決成立させた。
以上の事実が認められ、<書証番号略>
2 本件支出(1)ないし(14)に係る金員の使途、バンコクでの買春等の事実に関する当裁判所の認定は、原判決一二丁表九行目から同丁裏末行までに記載するところ(ただし、一二丁裏二行目「バンコクのホテルでは各自一人部屋であり」を「当初東武トラベルが作成した計画書では、旅行中の宿泊はどの土地でもすべて二人一部屋としていたが、実際は、バンコクのホテルのみは各自が一人部屋になっており」に、同所三行目「観光バス」を「東武トラベルが予め手配していた迎えのバス」に改める。)と同一であるから、これを引用する。
当審証人Dの証言は、前記バンコクでのいわゆる買春行為が予め予定され実行されたことの事実を裏付けるものであり、当審における被控訴人Y3本人の供述中前記認定に反する部分はたやすく措信できない。
3 そこで、本件旅行決議の違法性の有無について検討する。
一般に、普通地方公共団体の議会(以下「地方議会」という。)は、議会の機能を適切に果たすため、必要な範囲で自治、自律の権能をもっており、議会活動の一環として必要と認める場合には、その裁量により行政事情等の視察を目的として議員を海外に派遣することができるものというべきであるが、それが目的、動機、態様等に照らし裁量の範囲を著しく逸脱し、若しくは裁量権の濫用にわたる場合には、その派遣決議は違法となるものと解せられる。
右に立って本件旅行につきこれを見るに、前記認定事実によれば、本件旅行は、海外の行政事情について、議員が知識を深め議会の活動能力を高めるため、外国における産業、経済、文化の行政視察を名目として実施されたものであるが、旅行業者をして立てさせた旅行の行程、内容は一般の観光ツアーと何ら変わりがなく、地方議会の議員として、旅行目的地における産業、経済、文化等の行政事情の視察研修を目的とした行動計画は何ら立案されていなかったものであり、実際の旅行行程においても専ら観光に終始したものということができる。被控訴人Y12、同Y4、同Y3らは、それぞれの本人尋問(Y3は当審、その余は原審)においては、予め旅行業者に対し、目的地の議会等の見学をセットするよう要請したが、手続の関係から実施できなかった旨供述するが、もし、本件旅行の目的が真に海外の議会や関係行政の実情を視察することにあるのであれば、まずは議会ないしは議員自らがどの国の議会や施設その他の場所をどのような方法で見学するのかを具体的に検討し、必要に応じ関係機関とも連絡、調整を取りながら周到に準備をするべきであって、単に旅行業者に「視察場所をセットして欲しい」と依頼しただけで事が足りたということはできないものというべく、本件全証拠によってもそのような事前準備が議会、議員、旅行業者らによってなされた事実は全く認められない。前記Y3らは、特定の行政施設等を見学しなくても、外国の風物に接すること自体が研修であるなどと供述するが、確かに海外に旅行し、我が国と異なった文化や生活に触れることが有意義であるとはいうまでもないところである。しかし、いやしくも地方議会の議員等が公務として、したがって公費により、海外の行政実情についての知識を広めるためにする旅行が、一般の観光旅行と全く同一であってよいはずはなく、前記被控訴人らの供述は、観光旅行も研修のうちであると強弁するに等しいものである。しかも、前記認定の参加議員らによる買春行為は、当初から参加議員らにおいて自ら進んで計画したものでなかったにしても、最初の目的地であるバンコクに到着するや、何よりも先ず旅行業者が予め手配していた迎えのバスで買春婦の待つ場所に直行し、相手となるべき女性を指名したという前記認定の事実、及び、前掲証人Dの証言を総合すると、参加議員らは、旅行業者がとかく男子だけの東南アジア向け団体旅行において計画しがちの買春ツアーといわれるものと同じような買春計画が本件旅行に組み込まれていることを認識し、これを容認していたものと推認することができるのであって、被控訴人ら参加議員のこのような買春行為を、行政事情視察という旅行目的とは無関係の私的な時間帯における個人的な遊興にすぎないとみることはできない。
以上の諸事情を総合すると、近時地方行政においてもその内容が多岐にわたり、複雑さを増し、議会における審議も広範な事項に及び、時には国際的視野に立った判断が求められる等議員にも広い知識と教養が要求され、そのために地方議員の海外視察の必要性が高まっていることなどの事情を考慮してもなお、本件旅行はその計画、内容、参加議員らの行為の実態等から判断して、海外の行政事情視察を目的とした研修旅行としては著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。
そして、吉野町議会における本件旅行実施の決議は、反対した真鍋邦芳議員を除くその他の多数議員の賛成によって成立したものであるが、その賛成議員の中で本件旅行に参加しなかったのは、議員二〇名中、前記真鍋議員を含めて六名のみであって、少なくとも旅行に参加した被控訴人ら議員は、右決議に参加する前から、本件旅行が前示の内容の研修に名を借りた公費による観光旅行で違法なものであることを知りながら議決に加わり賛成し成立させたものであることが認められるから、本件旅行決議はその裁量権を逸脱した違法のものと認めざるを得ない。
三次に、本件支出命令(1)ないし(14)、及び、本件支出(1)ないし(14)の違法性と被控訴人らの責任について検討する。
前記二の認定によると、本件旅行は吉野町議会が決定したものであり、本件支出(1)ないし(14)はいずれも一般会計予算及び同補正予算中の議員研修費から支出したものであることは明らかである。
ところで、普通地方公共団体の執行機関としての長と議決機関としての議会とは、相互に独立していて、執行機関としての長が議会の議決の内容等について指揮監督等の権限を有するものではないから、町長、収入役等町の財務会計上の権限を有する者であっても、議会において議員研修旅行を行うことを議決し予算的措置もとられた以上、その決議、内容に重大かつ明白な瑕疵があってこれに基づきその費用を支出すること自体が違法となるような場合でない限り、独自の判断に基づき議決に従わない自由をもたず、町長は議会の決議を尊重してその費用の支出を命じ、収入役は町長の命によりこれが支出をなすべき義務があるものというべきである。
本件海外視察(研修)旅行決議は前記認定のとおり違法なものというべきであるが、右議決またはその内容に明白かつ重大な瑕疵があるとは認められない(その旨の主張、立証はない。)から、議会で決議された予算及び補正予算支出決議の執行としてされた被控訴人Y1の本件支出命令(1)ないし(14)、被控訴人Y2の右命令に基づく本件支出(1)ないし(14)は、客観的には違法である(先行行為である議会の議決の違法性が承継される。)が、被控訴人Y1及び同Y2は、右支出命令及び支出につきその責任を阻却されるものというべきである。
しかしながら、被控訴人Y1以外の被控訴人らが受領した本件支出(1)ないし(13)の旅費は客観的に違法な支出行為によるものであり、本件旅行に使用されてはならないものであるから、被控訴人Y1、同Y2及び同Y12を除く被控訴人らは、損害賠償として、被控訴人Y2及び同Y12は不当利得として、それぞれ吉野町に対し、受領した金額と同額の金員を支払うべき義務がある。
四控訴人ら主張の支出(15)については、その支出に係る八〇万円のうち七一万円が昭和六三年一〇月一三日に被控訴人Y3から吉野町に返還されたことは控訴人らにおいて認めるところであり、残り九万円については、<書証番号略>によれば、平成二年一二月二七日に被控訴人Y3から吉野町に戻入されていることが認められるから、支出(15)の支出命令及び支出が、仮に違法であったとしても吉野町の損害は補填されたことになるので、右支出に関する控訴人らの請求は失当である。
五監査請求の経由
<書証番号略>によれば、控訴人らは、平成元年九月二五日、吉野町監査委員に対し地方自治法二四二条一項の規定に基づき本件支出命令及び本件支出につき監査を求め、吉野町の被った損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを請求したが、同委員は同年一一月二二日にこれを理由がない旨決定し、そのころ、控訴人らに通知したことが認められる。
六結び
以上によれば、控訴人らの本訴請求は、被控訴人Y1以外の被控訴人らに対し、それぞれ同人らが受領した額に相当する金一五万八〇〇〇円を吉野町に支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、被控訴人Y1に対する請求及び被控訴人Y2に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。
よって、控訴人らの請求を全部棄却した原判決は相当でないから、これを主文第一項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、九二条本文、九三条一項本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 田中観一郎 裁判官 井上郁夫)